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第11話 DD-151 投稿日: 2008/02/04 00:17:00
Epilogue


 障子を開け放ち、縁側の窓も開ける。母さんの名前を名乗る花の蕾がほころび始め、空で雲雀がじゃれあう。吹き込む風はまだ肌寒くて、庭木を通り抜ける音が辺りにさんざめく。

 花を生けて蝋燭を灯し、線香に火を点ける。りんの音が部屋内に響き渡る中で静かに手を合わせた。
「研修修了おめでとう飛鳥。これでお前も検事か…」
 背後からおじさんがそうお祝いの言葉をくれた。仏壇の位牌の前、線香の匂い、窓の向こうの柔らかな日差し。
 あまりこの人は好きにはなれないけど、私を守って今まで頑張ってくれているのは理解している。けれど私がこの人を好きになれないという事もわかっていると思う。
 父さんの位牌はないけれど、多分そんなものは欲しがらなかっただろう。だから母さんの位牌に名前を書き加えただけで済ませた。
「おじさんは、これからどうするの?」
 私が仕事に就くまでは、何を犠牲にしても働くと言っていた。でもその枷は無くなった。その人がこれから何をするつもりなのか、少しだけ興味があった。
「さあて、教師でもやりたいかな」
 穏やかに笑いながらおじさんはそう答えた。
 ああ、この人もこんな笑顔を作れるのだな。
 人を見るたびに挨拶代わりに「姉さんに似てきた」と言う、重度のシスコンのこの人も、うちの両親が生きていたら今はどんな顔で何をしていたのだろうか。

 *

 あれから何かある度に、何か決意をするたびに立ち寄るこの部屋で、秘密の扉を開けて丁寧に中の菓子缶を取り出す。
 宝物の一つに、ところどころ紙魚の浮いた昔は白だった封筒が入っている。母さんが父さんに宛てた手紙だ。
 私と父さんの手垢にまみれ、タバコの焼け焦げた跡や涙の染みがあちこちにある。
母さんは骨も残らなかった。
 でもその姿は目を閉じればすぐに思い出せる。どんな言葉をかけてくるのかだってわかってしまう。
 その声を想像しながら、また今日も封筒から手紙を取り出した。

『親愛なるアメリー

 この手紙があなたの手に渡る頃には、私はたぶんこの世にはいないと思います。前とは違って、今度こそ永遠の別れになるでしょう。

 私達が生きている世界はとても残酷で自分勝手で、そのくせ寂しがり屋ばかりです。みんなが怖がりだから、きっと必要以上に意地を張ったり強がって人を傷つけたりするのかもしれません。
 飛鳥は、あの子はそんな人の悪意ばかりを見て、この十三年間を過ごしてきました。守ってくれるものが無いから、うんと小さいときからそんなものに晒され、強く生きていかなければならなかったのだと思います。
 だからたぶん、人に甘えるのもどうやったらいいのか、わからないと思います。私にさえどこか遠慮したりします。

 あの子は愛情表現がとても不器用です。でも、あなたのことはとても大好きです。
 随分誇張が混じっていた気がしますが、あなたと飛鳥が二人で過ごしたあの五日間を、あの子はとても楽しそうに何度も何度も話して聞かせてくれました。笑顔交じりで誰かの話をすることなんて、今まで一度もなかったことです。だから父親として、自信を持ってあの子に接してあげてください。

 私はあなたに何も望んではきませんでした。初めてそれをしたのがあの十四年前のとき。そしてたぶん最後の望みはこのお願いになると思います。
―あの子の名前を、飛鳥という名前を、あなたの口から呼んであげてください。―
 きっと喜びます。たぶんその喜びの表現は、照れ隠しの悪態だと思いますが。
 それでも時間が二人の仲を結い直してくれると思います。少し悔しいですが、あなたと飛鳥は私よりも馬が合うような気がします。
 飛鳥が大人になる頃には、二人であちこち飲み歩いたり、野球中継を見ながらあれこれ話したりするんでしょう。私にはその情景が手にとるように浮かびます。それを眺めて暮らせる日がくれば、きっと楽しかったのでしょうね。

 けれども私はあまり自分の人生に後悔はないのですよ?
 辛い事も悲しいことも、多分あなたと同じ位にあったのです。だからこそ今がある。だからこそ後悔なんてしないのです。
 もしかしたら、あなたは今まで一人だけで苦しんだ色々なことを私に隠していたのかもしれませんが、私の言葉を信じて、少しでもその苦しみを取り除いてくれれば嬉しいですね。
 願わくば私がいなくなったショックで自棄にならないでください。そう思うのは自惚れが過ぎているでしょうか?

 長くなりすぎましたので、もう筆を置きます。どうかお元気で。


  愛しています 日之本さくら』

 結びのあとに、父さんは自分の名前を書き加えてこう残していた。

『夜明けだ。お前はお前の人生を生きろ    探偵より』

 隠れて私の名前を呼ぶ練習はしていたくせに、ついに面と向って言うことも、紙に書いて残すこともしてくれなかった。とんでもない頑固親父だ。

 けどまあ二人の願い通り、好きなように、強かに生き抜いてあげる。


 ありがとう。お父さん、お母さん―――


Ende

解説 DD-151 投稿日: 2008/02/04 00:22:00
あとがき

 や、やっと終わりましたw

 日之本飛鳥に幸多からんことを…

 ここまで読んでくださった皆様、ニホンちゃんに似つかわしくない長文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
 探偵さんが死んじゃったり、ウヨがシスコンの度合いを際限なく悪化させたり、タイワンがレザーフェチになっちゃったりしてますが、別に各キャラを不当に貶めたくてやってるわけじゃござんせん。キャラへの愛情は歪んだ描写の分だけ深いと思って頂ければ幸いw
 誰もがそこに行き着くまでの間に苦悩と懊悩に覆われ、あれこれ足掻きながらたどり着く世界を、描写の中に織り込もうと思ったらああなったのです。

 表題のヒューマン・ハイウェイは、霧深き山の中から降り立った場所で、人の悪意や風評に晒されて途方に暮れる様を歌った歌です。たぶんニール自身がカリスマミュージシャンとして祭り上げられた戸惑いが、歌の真意にあるんでしょうねえ。
 エピローグは探偵のモノローグからは逸脱するので、続けて書くのには抵抗あったのですが、話の流れは大きく外れないと言うことと、飛鳥が探偵の後釜に座れる人間だなと思ったので少々筋曲げましたw

【Human Highway / Neil Young】
http://jp.youtube.com/watch?v=ZrMvT6efvS0 
卑怯だよなあ、このカッコヨサ…

 それでは皆様、探偵アメリーはここにて仕舞となります。
 稚拙な拙作ご賞味頂き、感謝感激でございます。またいつか、何かの形で、『こんな筈じゃなかった』と歴史に問い詰められる彼らにお会い頂ければ幸い♪

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